過去の活動報告

2012年 講演会レポート


「インターネット宿泊販売の現状とJTBの取組み」
〔講師〕平野 利晃 氏 (株) i.JTB 常務取締役 販売本部長(S.57 経)
の基調講演をいただきました。
前半と後半に分けて掲載いたします。


前半
*JTBの運営する多彩なウェブサイト
*クロスチャネルという特色
*継続的投資が必要なサイト運営
*コールセンターに電話してくるのはホームページを見た人がほとんど?
*広告宣伝費を誰が負担するべきか


後半
*本当のクロスチャネルとは?


という構成になっております。店舗販売で圧倒的な強さを誇った業界最大手が繰り出す 多彩なウェブサイトの全容をどう改革していったか、大変に読み応えのある内容になっております。前半では筆者が取り組まれたクロスチャネルについて詳細に解説しながら、ネット販売という世界のなかでの試行がどう行なわれたか、読み手をぐんぐん引きつけます。 後半はウェブというバーチャルな環境の中で培ってきたノウハウを駆使しながら店舗販売で獲得したJTBクオリティーをどのように魅せていくか、販売戦略に触れながら次世代スマートフォン対応に向けた取組みを紹介しています。是非お読みください。


2回目の紹介文


平野 利晃 氏 (株) i.JTB 常務取締役 販売本部長(S.57 経)の基調講演の第1部は如何でしたでしょうか?
いよいよ、クロスチャネルのオペレーションについて解き明かされます!


前半

◇JTBの運営する多彩なウェブサイト


JTBのホームページを統合するにあたり、「ホームページを何のために使うのか」を考え直すことからスタートした。そして、個人グループのお客様に販売をするためのサイトとして位置づけをした。


具体的にどのように変えたかというと、各商品にアクセスしやすくし、お客様がすぐ商品を検索できるようにした。以前は法人関係のものもトップページにあったが、今は法人組織のお客様はこちら、団体関係のお客様はこちらを見てくださいと別に表示するようにした。


各部門の売り上げについてみてみると、国内ツアー(エース商品)は年間60億円、旅館・ホテルで年間230億円、高速バス・路線バス(照会のみで購入はコンビニエンスストアへ誘導)で100億円、観光プラン・レジャーチケットで100億円、海外ツアーは120億円の売り上げがある。


i.JTBはJTBのホームページ以外にも、運営しているサイトがいくつかあり、その中の1つに「るるぶトラベル」がある。ここは国内旅行のオンライン販売を専門にしているサイトである。また、海外旅行の航空券、個人旅行を販売している「トルノス(TORNOS)」がある。


この他にi.jtbが直接取り扱いをしているわけではないが、「るるぶ.com」というものがある。観光情報雑誌「るるぶ」を出版しているJTBパブリッシングが運営している観光情報サイトである。この「るるぶ.com」と「るるぶトラベル」は兄弟サイトとして連携した取り組みを行っている。また、着地型ということで各地域に北海道や沖縄などの情報を取り扱ったサイトがある。更に「JAPANiCAN」「サンライズ」というインバウンドのためのサイトがある。このような形でお客様の目的にそった複数のサイトを試行錯誤しながら運営している。


◇クロスチャネルという特色


JTBホームページの特色としてはクロスチャネルというものがあげられる。オンラインだけで販売するのではなく、サイトで商品をみていくと最終的にどのような方法で申し込むのかについて、お客様が選択できる形になっている。インターネットで予約から完結させるか、ネットで予約して店頭で支払い・受け取りをするか、またはコールセンターにホームページを見ながら電話で申し込むか、メールで申し込むかを選択することができる。このようも購入方法に様々な選択肢を設けているということがJTBホームページの特徴である。


◇継続的投資が必要なサイト運営


最近のインターネット販売の状況について述べる。インターネットでの宿泊販売額は「じゃらん.net」と「楽天トラベル」で、それぞれ年間3000億円取り扱っている。「一休.com」が300億円、JTBが650億円、4社あわせると約7000億円になり、各旅館・ホテルの直販サイトなどを含めるとマーケット全体で1兆円以上になるだろう


良いサイトさえ作れればあとは人手やお金がかからない」と考えている人が多いが、実際は違っており、お客様にサイトにアクセスしてもらうのが大変である。自身の経験上、首都圏地区にパンフレットを配るのに年間30億円かかることがわかっている。現在、サイトに来てもらうための広告で同じくらいの費用がかかっている。


また、「るるぶトラベル」に関してはサイトにプランを登録してもらうのに、旅館・ホテルに営業をしなければならない。今現在、全国で150名の営業マンが「るるぶトラベル」のプランを充実させ、旅館・ホテルを販売するために活躍している。お客様にサイト自体にきてもらうことと、プランを充実させ、広告を打つところで経費がかかっている。  ホームページ(トップページ)から入って、順番に施設を選ぶお客様は、サイト利用者の1割にしかならない。他のお客様は目的や施設で検索した結果からサイトにアクセスする。


例えば、ホテルでビュッフェを販売したいとなると、お客様がどのような言葉で検索するのかを考えなければいけない。実際には、「ランチ バイキング」「ランチ 食べ放題」で検索する人の数が圧倒的に多く、「ランチ ビュッフェ」での検索はほとんどない。ホテルでビュッフェを行っているページにお客様にアクセスしてもらうにはそのページに「ランチ バイキング」「ランチ 食べ放題」というキーワードを散りばめておけば、検索結果の上位に表示されるようになるのだ。パンフレットの中でビュッフェという言葉を活用するのは良いが、サイトになった場合はこのような言葉をうまく活用して検索結果としてきてもらう、ということを考えるのが今後は必要になってくるだろう。


このように、今は検索というものが重要視されており、インターネット販売に与える影響力をもっているのでそれへの対応というものが今後、非常に大事になってきている。


また、最近話題になっているのがSNSであるが、まだそこから販売に直結するのには時間がかかるとされている。当面はGoogleやYahoo!などの検索にどのようにしてかかり、上位に表示されるか、いかに効率的に広告をだすかが大事なポイントになってくる。


◇コールセンターに電話してくるのはホームページを見た人がほとんど!?


この中でクロスチャネルがJTBの特徴であるということは前述した通りである。以前はコールセンターで年間140億円の売り上げがあり、新聞やパンフレット、雑誌をみてからの電話が多かった。ところが現在は圧倒的にJTBホームページからの申し込みの電話が多くなった。旅館・ホテルの申し込みの9割、国内・海外ツアーだと7割がホームページをみたお客様からのものだとわかっている。以前は全てのホームページの下にコールセンターの電話番号を載せていたが、申し込み以外の問い合わせも多くなり、全てのページに番号を載せるという行為が営業効率上、正しくなかったと判断して現在ではそのような掲載はしていない。


この他に、これまでは、国内ツアー(エース商品)はパンフレットで販売することをメインに考えていたので、商品をどうやって登録してもらうかが課題となった。商品を店頭用に作っていた時代から、店頭用に作った商品をどうやってインターネットにのせて売るかという考え方になり、このエースのホームページが立ち上がった。そしてこの2年間で大幅に変わり、今はインターネットを最優先でやっていこうと考え方がグループ全体に浸透してきた。


◇広告宣伝費を誰が負担するべきか


グループで様々な役割にわかれてサイトを運営しているので多くの問題が起きる。以前は広告宣伝費をi.JTB単体で負担していた。これは、オンラインで購入されたお客様からあがる収益だけで広告宣伝費がまかなわないといけないことになる。しかし、実際はコールセンターにお客様が流れてしまい、ホームページをみて店頭に足を運んでいるお客様もいらっしゃるため、i.JTBだけで負担するとなると営業成績が落ちて広告宣伝費を急激に絞ったりせざるをえない状況がやってくる。他の分野での稼いだ部分からあがる利益でしか広告宣伝費が生み出せない状況になってくる。そのため、最近では切り替えをしてグループ全体で宣伝費を賄って行こうという考え方になってきた。


現在、JTBグループ全体の取扱額は1兆5,000億円である。そのうち1,300億円以上がインターネットでの販売に相当し、修学旅行からインバウンドまで含めた全体の取り扱いの10%近くになってきている。宿泊単体だと2割がインターネット販売になった。


JTBとしては、インターネットでの販売を成長分野と捉え、今後ものばしていきたいとグループ全体で考えている。


後半

◇本当のクロスチャネルとは


本当のクロスチャネルとはなにか。支店で予約したものの状況をネットでも見られるようになるのが理想とされている。今はインターネットから店舗への誘導のみになっている。ネットを通じての内容の確認、変更や取り消しなどができるのがお客様にとって理想の形になるのではないか。


インターネットでの宿泊販売がどのような状況になっているのか。「るるぶトラベル」の特徴は航空券のみの予約もできること、トヨタレンタカーの全営業所のレンタカー手配もできることである。


JTBホームページの特徴の1つに1カ月以上前の申し込みが4割あることが挙げられる。「るるぶトラベル」は1週間以内の申し込みが5割ある。JTBグループ全体の宿泊の販売額は2008年の3650億円がピークでそのあとはリーマンショックなどを理由に下がってきている。その中でインターネット販売645億円のうちわけを見ると2011年はJTBホームページが215億円、「るるぶトラベル」が430億円である。JTBホームページは微増、「るるぶトラベル」は大幅に伸びているというのが現在の状況である。


なぜ2つのサイトを運営しているのか。JTBホームページは店舗も含めたJTBグループ全体の販売が必要になってくる。それだけだと、動きが遅くなることや、旅館・ホテルの希望を吸収しきれない個所がでてくるため、「るるぶトラベル」というサイトを新しく立ち上げ、「じゃらん.net」「楽天トラベル」「一休.com」が取り組んでいるビジネスモデルに近い形の販売をしていくことが旅館・ホテルに役立つ上では必要になってくるのではということを考えた結果である。


同じ商品を購入するお客様でもJTBホームページで購入したお客様とインターネットで購入したお客様で傾向が異なっている。JTBホームページを見て、店頭で申し込んだり、コールセンターに申し込んだお客様の方が統計的にはキャンセル率が少ないことがわかっている。そのような形でJTBが複数のインターネットサイトを展開しているが、様々な取り組みをしていく中で問題が起きることもある。今、思考錯誤しながら取り組んでいる。


現在、JTBホームページを全体的にリニューアルしている。先日出版された週刊ダイヤモンドでJTBホームページは企業サイトとして10番目と評価された。1番目はJALであり2番目がANAであった。選考基準としては大きく2つあり、1つ目はそのサイトでどのくらい販売に貢献しているか、2つ目はいかに情報を多く提供しているか、である。


インターネットにはまさにこの2つの特色があり、ここが常にJTBの中でも議論されており販売という点は重視しているものの、情報を伝えるという部分でグループ全体の情報を多く載せていてわからなくしてしまったと、いう部分がある。今回の切り替えではJTBホームページのトップページにアクセスしたお客様の離脱が5%減り、商品にアクセスするお客様が5%増加した。お客様が迷わないサイトというのを目的としていたためその狙いは成果がでたと考えている。サイト自体を何にためにするのか、目的によって作り方が変わってくる。特に旅館・ホテル自社サイトはインターネット販売に非常に密接になるため、オンラインでの予約を最優先するという点では同じ考え方である。


次に何を変えたか。旅館・ホテルのページは検索スピードが遅かったが、今では数秒で表示されるようになりなった。JTBの場合はもともと店舗で販売するシステムとつないでいることがあるので、まずは店舗で販売するためのシステム(トリップス)を作りそのデータベースとインターネット販売のB to Cシステムをつないでいることからシステムが重くなってしまっていた。できるだけお客様に見える側の機能を固めたり、データベースのもちかたを変えたりしながら改善をした。


その結果、最後の商品ページまで辿り着くお客様が2倍になった。サイトはスピード機能が大切だと改めて実感した。しかし残念なことに商品まで辿り着いた後、成約までした人は1割しか向上しなかった。それは、商品の問題もあるだろうと思っている。商品の品ぞろえはJTBが旅館・ホテルお願いしてプランを考案していただいているので新鮮味に劣る面がある。お客様が商品までに辿り着くまでの努力も必要だが、成約に結び付ける商品の魅力というものも重要視されている。現在、改善を進めている。


次にスマートフォンへの対応について述べる。JTBホームページのアクセス者数の2割がスマートフォン利用者である。「るるぶトラベル」においてはスマートフォンのお客様の成約率が高いことがわかっている。今後はスマートフォンへの対応が最優先でやっていかなければならない。


旅館・ホテルがスマートフォン利用者に向けてアプリを作る必要はあるかといったらおそらくその必要はない。アプリは乗換案内などの比較的毎日よく使うものをインストールする人が多いため全国展開のチェーンホテルなどお客様が比較的毎日くる企業ならば必要かもしれないが、一般的な企業はスマートフォンに適したサイズにしておけば問題はない。LOOKなどの海外旅行商品は情報も多く複雑なのでスマートフォンでどのくらいの比率になるかと思っていたが利用者は2割になり成約率はさがるが、日によっては販売の15%がスマートフォンからの申し込みということもある。


今後、JTBは交流文化産業ということでお客様が動くところ、様々な分野で活躍していきたい。そういう中でJTBのインターネット販売がより重要になってくる。目的があって旅行したいお客様にぴったりの商品をお届けすることを第1に考え、一定のボリュームで販売できるようになれば、次は需要を創出するとりくみができる形にしていきたい。そのために具体的にはJTBが組織しているホテル・旅館がありその会員組織と連携して「やどだより・まちだより」という地域の情報をいれてもらうようなとりくみをしている。イベントなど旅館・ホテルの視点で情報を登録していただきお客様にみてもらうサイトがある。


そして、「感動のそばに、いつも」いられるJTBでありたいと考えている。